|Posted:2012/09/10 02:57|Category :
健康・病気・通院|
8月31日の記事で、生後2ヶ月齢直前に行なった簡易キットによる血液検査で「FIV陽性」と判定されたたんぽぽちゃんが、生後6ヶ月齢に行なった簡易キットによる血液検査で「FIV陰性」に変わったことをお伝えしました。
「そんなことって、あるんですか!?」というコメントもいただいたので、がんばってわかりやすく説明する図を描いてみました。
まず、「ウィルス」と「抗体」について説明します。ねこに限らずさまざまな動物に疾病をもたらす病原のひとつとして「ウィルス」があります。ウィルスに感染した動物は、それに抵抗するための「抗体(中和抗体)」が働く免疫反応を起こします。

図1 ウィルスと抗体

図2 ウィルスに感染する

図3 抗体によってウィルスが食い止められる
では実際に、ねこ(母ねこ)がFIVウィルスに感染した場合について考えてみましょう。

図4 図2のように、ねこがFIVウィルスに感染すると……

図5 図3のように抗体が作られて、FIVウィルスから体を守る働きが作用します。

図6 一度FIVウィルスに感染したねこの血液には、抗体が残ります。簡易キットでは、この血液中の「抗体」に反応して「FIV陽性」と判断します。注意しなければいけないのは、簡易キットは、FIVについては「ウィルス」に反応するのではなく「抗体」に反応している、という点です(FeLV=猫白血病ウィルスに関しては、簡易キットは「ウィルス」に反応するようになっています。この違いがややこしい。)。
さて、ここからがたんぽぽちゃんの話になります。「移行抗体」というキーワードが出てきます。子ねこの場合、多くは「初乳=母ねこが子ねこを産んで最初に飲ませる母乳」に含まれているものです。

図7 おもに「初乳」を通して、子ねこは病気に対する一時的な抵抗力=「移行抗体」をもらいます。FIVウィルスに対する移行抗体ももらいますし、ねこ風邪にたいする移行抗体ももらいます。
「初乳」を飲むことによって、いろんな病気に対する免疫力をつけられるので、子ねこがこの「初乳」を飲める状態にあったかなかったかは、親からはぐれた子ねこを保護して育てるときに大変重要なポイントになります。母ねこが子ねこを産んですぐ、人間が子ねこを母ねこから引きはがしたようなケースでは、初乳を飲めなかった子ねこは病気に対して非常に弱い抵抗力しか持たず、あっという間に亡くなります。特に、保健所や動物管理センターに持ち込まれた子ねこを引き出す場合は、このあたりの見極めが難しい。
さて、こうして子ねこを病気から守ってくれる「移行抗体」ですが、簡易キットで血液検査をする段になると、ちょっとめんどうなことになります。

図8 FIV陽性の母ねこの初乳には、FIV抗体が含まれます。したがって、子ねこはウィルスに感染したことがないのに抗体を持っている状態になります。簡易キットでは、これに反応して「FIV陽性反応」が出ることになります。今から振り返ってみると、これがたんぽぽちゃんの状態でした。

図9 母ねこから子ねこへの贈り物である「移行抗体」は、子ねこが大きくなるにしたがって、その効き目を失います。だいたい2ヶ月齢あたりから薄れはじめ、6ヶ月齢になるとほぼ消えると考えられています。たんぽぽちゃんが、お母さんねこの初乳からもらった「FIV抗体」も6ヶ月経って消えてしまい、その結果、たんぽぽちゃんの再検査では「FIV陰性反応」が出ました。
ちなみに、ノラねこの子ねこが、1~2ヶ月齢くらいまでは元気だったのに、2ヶ月齢にさしかかったあたりから、とたんに鼻水・くしゃみ・下痢が出始めて体調を落とし、みるみるうちに体力を失って亡くなることがあるのは、この「移行抗体」の効き目が切れ始めるせいです。
もうひとつちなみに、FIVワクチンというのがあります。アメリカで10年ほど前に開発されて、日本にも数年前に入っては来たものの、3週間おきに3回打たなきゃいけないとか、防御率がそれほど高くないとか、まあいろんな理由で広まらず、2012年7月に国内代理店の在庫限りで販売中止になったという代物ですが、このワクチンを接種すると、当然ながらねこの体内には「抗体」が形成されます。したがって、FIVワクチンを打ったねこに対して簡易キットを使うと「FIV陽性反応」が出ます。
ワクチンを打った子が、その後FIVに感染しているかどうかを確かめるには、抗体ではなく、ウィルスそのものを検出する検査(FIVの遺伝子(RNA)またはDNA(プロウィルス)を検出する「遺伝子検査」)を行なわなければなりません。抗体を検出する簡易キットの場合、費用は4,000円程度ですが、ウィルス自体を検出する遺伝子検査の場合は10,000円近くになります。
この遺伝子検査は、子ねこや一般のねこでも、もちろん行なえますし、子ねこの場合には特に行なう価値があります。なぜなら、移行抗体にじゃまされることなく、2ヶ月齢程度の子ねこでも最初からFIVに本当に感染しているかいないかがわかるからです。長崎猫の会.さんの保護ねこでは、この遺伝子検査を積極的に行なって、早いうちからFIV感染の有無を確定していますね。
たんぽぽちゃんでも、最初からそうしていればよかったかもしれませんが……費用がやはりネックになりますね。
テーマ : 猫と暮らす
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