|Posted:2010/06/16 00:12|Category :
考えてみたいこと|
この記事を書こうと思ったのは、まねき猫さんのところのマイケルくんが、一度脱走して大けがを負ったその傷も癒えないうちに、また再び脱走してしまった、という記事(「マイケル逃走中」と「教えて欲しいです。」)を読んだからです。たくさんのコメントが付いていて、いろんな意見があります。まずは、コメントも含めて、ご覧になっていただければと思います。
わたし個人のスタンスは「完全室内飼い」ですし、できればそれを周りの方にもお勧めしたいですが、さりとて「完全室内飼いをしない飼い主は、猫への愛情がゼロである、許せない!」と糾弾したいわけではありません。もちろん、まねき猫さんを批判するつもりでもないですし、さまざまなスタンスで付けられたコメントを論評するつもりもありません。マイケルくんが脱走して、一番心を痛めていらっしゃるのは、まねき猫さんご自身ですし、早く無事にマイケルくんが戻って欲しいと切に願います。そのうえで、純粋に「わたしはこう考えるけれど、どうでしょう?」というつもりで、記事を書こうと思います。
「完全室内飼い」には、一つの大きなメリットがあります。それは、家の中にいる限りは、ねこたちは屋外に暮らすよりも、はるかに安全に・安心して暮らせる、という点です。交通事故に遭う心配もないし、FIV・FeLV・パルボなどといった致命的なウィルスによって命を落とす心配も(よほど飼い主が不注意をしない限り)ごく少ない。寒いときは暖かく、暑いときは涼しく、雨の日にもずぶ濡れになることなく、暮らせます。ごはんの心配もいりません。結果として、天寿を全うできる確率も高いでしょう。それはやはり、ねこにとって「一つの大きな幸せ」を、飼い主──もしくはパートナー──として保証できるということを意味します。
一方で、「それは、ねこの自由を奪っているのではないか?」「陽の光、柔らかく湿った大地、木の葉が風に揺れる音、草いきれ、虫や鳥などのさまざまな生きもの、そういった『本来ねこが享受していた自然』からねこを切り離して、閉鎖的・人工的な空間に閉じ込めてしまうことではないか?」という意見もあります。そんな権利が人間にあるのか。人間の勝手な都合で、ねこの気持ちを抑えつけているのではないか。
またこういうことも悩みの種です。「完全室内飼いにするために、人間たちがいろんな不自由を被らなければならない」「窓も開けられない、いちいち鍵を閉めないといけない、網や格子の張り巡らされた見てくれの悪い家になってしまう」「自分一人ならともかく、子どもや高齢の家族がいると、なかなか徹底することは難しい」「『たかがねこのためにそこまでできない』と家族の不満が今にも爆発しそうだ」。
前者の問題については、わたしはこう思います。なるほど、確かに、なんの心配もなくのびのびと自然の中で暮らせるなら、それに越したことはない。気が向いたら家に戻ってごはんをもらい、また気が済むまで外で遊べばいい。だけど、今の長崎──に限らず、日本中ほとんどどこでもそうですが──の「お外」の現状は、「なんの心配もなくのびのび暮らせる自然」にはほど遠いです。狭い道を、人間すらはね飛ばしかねない勢いで走り去る自動車は、危険の最たるものでしょう。せまい街なかにあふれる「自然な個体数」を遥かに超えた仲間たちは、かなりの割合でウィルスに感染しています。ちょっとした接触で、すぐにそのウィルスには感染してしまいます。同じく街なかにあふれる「人間」は、決して「いい人」ばかりとは限りません。サザエさんみたいに箒を持って追いかけるくらいならまだしも、理解しがたい執拗さで虐待を行なう「自称・ヒト」がいます。とてもじゃないですが、「快適なお外環境」とは言いがたい。
そして、そうした「お外環境」にしてしまったのは、ほかならぬ私たち人間です。「人間の都合」でそういう社会ができ上がってきている。とすると、突き詰めれば、ねこたちにとって快適なお外環境をつくるには、文明全体・人間全体を否定しなければいけなくなります。そりゃあ、さすがに、現実的ではないですが。
「人間の勝手な都合」でろくでもないお外環境をつくってしまったことに対して、飼いねこ──もしくはパートナー──に罪滅ぼしをするなら、ねこからみて少しはマシな環境をうちのなかにつくっていくしか、今のところは方法がない気がします。それが「完全室内飼い」ということの本質だと思います。ろくでもないお外に「はい、自由だよ」と出してしまうのは、それはそれでご都合主義ではないかと思うのです。
「人間にとって住みにくい家になる」「家族の賛成を得るのが難しい」という後者の問題も、それはやっぱり「人間の都合」ということになってしまいます。そもそも「飼う/飼われる」こと自体、ねこからみたら、人間の勝手な都合なのかもしれないですし。
人間の都合で飼って、人間の都合で人間の住みやすい家を保ったまま、人間の都合でろくでもなくなったお外にねこを出す──というのは、なんだかやっぱり違和感があります。そのひと・そのご家族・そのねこたちごとに、いろんな事情があるだろうから、「絶対おかしい!」とは言えないけれど。
でも、ねこと暮らす人ならおそらく誰もが共感できるのは、自分と一緒に暮らしているねこが、ひょんなことから目の届かないところに行ってしまうことの不安・焦り・恐ろしさじゃないでしょうか。「事故に遭ってないか」「ケンカして傷を負ったりウィルスをもらってきてしまうんじゃないか」「迷い迷って、もう戻って来られなくなっているんじゃないか」。そんな心配はしたくない、ということももちろん「人間の都合」ですが、ケガや飢え、ときには命と引き替えにしてまで「自由」をねこは求めている、というふうに考えるのも……やっぱり「勝手な思い入れ」なのかもしれません。
いま長崎(長崎市)には、わたしの知る限りで3つのねこの譲渡に携わっている団体さんがあります。長崎わんにゃん会さん、長崎猫の会.さん、長崎 Life of Animal さんです。それらの団体さんの譲渡条件をみると、
- 長崎わんにゃん会……里親希望の方へ
- ■ご家族全員が飼う事に同意し、全員で協力しあってお世話ができる方
- ■ペット可の住居にお住まいの方(アパート等の場合、大家さんに証明書を発行していただきます)
- ■終生飼育・室内飼い、毎年のワクチン接種及びフェラリア予防薬の投薬の実施をお約束していただける方
- ■狂犬病注射を毎年行っていただける方
- ■譲渡時、未去勢の場合、去勢・避妊手術を約束していただける方
- ■猫の場合、必ず室内飼いを約束していただける方
- ■鑑札や迷子札を必ず装着していただける方
- ■迷子になった時は必ず、保健所及び管理センター、警察署へ連絡していただける方
- ■年に数回、近況報告をしていただける方
- ■正式譲渡となりましたら、誓約書への署名・捺印、身分証の提示、医療費の負担(不妊手術費、ワクチン代など)、犬・猫との写真撮影をお願いいたします。
- ■遠方の方は、交通費(ガソリン代+高速代など)を、ご負担ください。
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- 長崎猫の会.……募集要項
- ■事前アンケートにご回答くださる方
- ■ご家族全員が里親になることを望み、終生家族の一員としてお世話をして下さる方
- ■単身世帯・同棲中の方はお断りする場合があります
- ■一戸建て又はペット可の住宅にお住まいの方で、完全室内飼いをして下さる方
- ■年に一度のワクチン接種と日頃の健康管理をして頂ける方
- ■これ以上不幸な命を増やさないということをご理解頂き、去勢・避妊手術を実施して頂ける方
- ■脱走・迷子防止の措置をとって頂ける方
- ■ご負担にならない程度の近況報告をして頂ける方
- ■基本的に、ご自宅でのお引渡しが出来る方
- ■希望地域は、 出来れば長崎県・佐賀県・福岡県・熊本県で、その他の地域はご相談下さい
-
- 長崎 Life of Animal……譲渡条件(猫)
- ■ご自宅での引渡しが出来る方。(飼育環境の確認の為)
- ■ご家族全員がこの子を迎えることに同意し、一生涯お世話をして頂けること。
- ■ペット可の住居である方で完全室内飼いをして頂けること。
- ■繁殖制限の義務があり、不幸な命を増やさないという事をご理解いただき、譲受者様の責任のもと、かかりつけの獣医師さんの判断で、適正な時期に避妊・去勢を行って頂けること。
- ■この子の成長に合った食餌・新鮮な水を与え飼育して頂けること。
- ■万が一の脱走に備え、首輪、および名前・連絡先(できれば住所も)を記載した迷子札をつけて頂けること。
- ■譲受者様の連絡先に変更がある場合、必ずご連絡を頂けること。
- ■譲受者様がお世話を出来なくなってしまった時の代理の方がいることを確認させて頂きます。
- ■年2回程度、譲受者様のご負担にならない範囲で、この子の近況を教えて下さい。
となっています。各団体さんから譲渡されるねこに限って言えば、「完全室内飼い」は絶対条件です。
「だから、それが正しいのだ」と言いたいわけではありません。しかし、どの団体さんも、純粋なボランティアとして、「人間の都合」で失われかけた命をつないで、里親さん=ほんとうの家族に渡そうとされています。せっかくつないだその命のリレーを、また「人間の都合」で終わらせてしまうことは、ボランティアさんたちにとっては堪えがたいことです。だからこそ、そういう「厳しい」条件が付いている。
うちのカンナもふみも、「危険なお外」から「少しはマシなおうち」に入れたねこたちです。カンナは残念ながら FIV のキャリア(おそらく母子感染)ですが、少し口内炎が気にはなるものの、なにごともない平和な生活をしています。お外にいたら、もしかすると発症していたかもしれません。ふみは、マンションの通気孔という人間の作ったトラップに落ち込んで、そのまま放っておけば確実に死んでいました。いろんな方々の協力を得て(それはまた人間の持つ力のもう一方でもあります)、今はうちの子になって、どたばたと走りまわっています。完全室内飼いで、滅多にない病院通いの時以外は、ベランダに出ることすらありません。カンナとふみがそのことをどう思っているかは、訊いてみたいけれど、もちろんやっぱりわたしたちには知る由もありません。ただ「カンナは幸せかな?」「ふみは幸せかな?」と自問自答し、またそう話しかける毎日です。
この記事に結論はありません。自分の意見を押しつけたいわけではありませんし、「そうじゃないよ」という意見も当然あると思います。もし気が向いて、コメントしてやってもよい、というのであれば歓迎です。できる範囲でわたしもお答えしたいと思います。
最後にもう一度、マイケルくんが早く無事に戻りますように。
「立ちわかれ いなばの山の 峯におる 待つとしきかば 今帰りこん」
カ:こんな記事書くと、ねこ会議さんにきっと絶対間違いなくA型と思われるよ?
父:うーん……まあ、そうだから、いいんじゃん?
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