
精霊流し(しょうろうながし)
小学校高学年~中学生のころさだまさしが好きでした(今もたまに聴きますが)。彼の初期の名曲に「精霊流し」という曲があり、DマイナーからEマイナーに転調するもの悲しいメロディーと、子どもにもわかる恋人との死別の歌詞とから、勝手に「川のほとりから灯籠を流して死者を弔う儀式」のイメージを作っていました。
その後、地域の祭りの映像などを見る機会があって、「本当は爆竹鳴らしながら通りを練り歩くものである」という知識を持ってはいたのですが、一昨年長崎に越してきて、実物を初めて見たときはやはり衝撃でした。行事の詳細については、Wikipedia でも参照していただくことにして、今日(昨日)8月15日がその精霊流しの日でした。そこで街まで出て撮ってきた写真をいくつか。
新盆を迎えた故人の魂が乗るとされる精霊船は、大人が数人でかつげるような小さなものから、電飾で飾りつけられて台車がついた何連にもつながるようなものまでいろいろあります。
こじんまりした精霊船。うちの近所など、郊外ではけっこう見かけます。
長崎ペット協会(わたしの情報が間違っていなければ、R&Gの浦川さんが会長のはず……今は違うのかな?)の精霊船。亡くなったペットの魂を乗せた精霊船ということになります。
長崎ペット協会精霊船を横からみた図。見知った顔があるような、ないような?
で、県外者的に一番驚くのは、長崎市内で一番の幹線道路のもっとも歩道側1車線が「精霊船+バス専用車線」になること。もっとも中心部では、一般車両通行止めで、バス+路面電車+精霊船になります。
道路案内標識の下あたりに1台精霊船があって、その手前のバス停に止まったバスは、発進後ゆっくりとその精霊船を追い抜いてから、元の車線に戻ります。
大きな道路同士の交差点で、大きな精霊船が通過するときは、信号が変わるまでに精霊船が渡りきらない場合があります。この場合、精霊船優先になります(そりゃそうか)。警察官のひとたちも慣れっこで特にせかしもしないし、青信号のまま待っているバス・路面電車の運転手・乗客も「まあ、いいか」みたいな感じです。これは、大波止の交差点を東から西に渡ろうとする3連精霊船。けっこう派手で、やんちゃでした。どのへんがやんちゃかというと……
上の写真の直後です。ブレていますが、青信号なのに待っているバスを尻目に、大量の爆竹を仕掛けて去っていく関係者。交差点はもうもうと煙に包まれました。
ここまででなくても、基本的に爆竹を鳴らし放題、花火のごみはその場に捨て放題なことも、県外者的に驚きの的です。
路面電車の線路の上でもうもうと煙が立ち上っているのは、爆竹がいっぱい入った段ボールに火を付けたから。ものすごい音と火花になります。
見事観客の度肝を抜いて、満足そうにバンザイしている火付け役(文字通り、「火付け役」)。写真をクリックして拡大していただくとわかりますが、煙の下に、火を付けた段ボール箱が残って見えます。
爆竹が詰まった段ボール箱を抱えて走る若者。たぶん、このあとこの箱の中身に火を付けることで頭がいっぱいのはず。
破裂した爆竹に驚くひとびとと、「しょーがないなー」って感じで歩み寄ってくる警察官。
道路に残された大量の爆竹の空箱と花火かす。まあ、一々片づけるわけにもいかないでしょうけれども。精霊船のルートにあたった道筋は、ここまでではないにせよ、爆竹の空箱や花火かすだらけなので、深夜に道路清掃車が出て全部きれいに掃除していきます。それもまた県外者にとっては驚き。
ちなみに、上の写真は大波止の夢彩都前交差点で、精霊船の最後の見せ場(見せ場なのか?)になるため、それまで残っているありったけの爆竹と花火をここで消費しつくす感じになります。そしてそのあと精霊船が向かうのは……
重機と産廃トラックが集まる解体場です。初めてこれを見たときは、本当に本当に衝撃を受けました。もともとは海に流していたようですが3連の精霊船が海に流せるはずもなく、どうなるんだろう……と追いかけていったら、ここにたどりつき、ばりばりと音を立てて壊されていく精霊船に、大げさでなく「諸行無常」を感じました。精霊船は、手で持てる小さいものでも1万円ぐらい、台車付きなら数百万から数千万円かけて作られるようですが、その夜のうちに破壊されつくすことになります。
次々と壊されていく現場を横目に見ながら、精霊船を最後まで引いていく親族・関係者たち。
座り込んで解体現場を眺めるひと、ビデオカメラにおさめるひと。
精霊流しの日は、街中で爆竹が鳴り響き、花火に火が付けられます。参列するひとびとは鉦を鳴らしてかけ声をかけ、一見、それはそれはにぎやかしいのですが、決してそれは「お祭り騒ぎ」ではなく、あくまでも、亡くなった故人を弔うための行事なわけです。
それを考えると、耳栓をしなければその場にいられないほどのやかましさがふと、さびしく思えてきます。花火や爆竹にきゃーとか YEAH!! とか歓声を上げている観光客を横目でみつつ、「あら、もしかして、少しずつ長崎スタンダードに染まってきたのかな?」と思ったさるねこ父でした。
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