
ふみがうちにくるまで(1)
もともと野良だったふみを初めて見かけたのは7月4日のことだ。長崎市内から北部へ向かう国道206号線の歩道脇にある草むらとも木陰ともつかないところで、一人で遊んでいた。人間からみれば12畳ほどの本当に猫の額のようなスペースだが、当時まだ生後1ヶ月半ぐらいだった(と思われる)ふみにとってはそれなりの広い世界だったようで、風に揺れる雑草に挑みかかってジャンプしたり、木の幹を登り降りしたりして、楽しんでいたのだ。
とはいえ、歩道を隔ててすぐのところは4車線+路面電車がひっきりなしに通る国道だし、草むらのすぐ脇はコンビニなので、歩道も朝から夜中まで人通りは絶えない。子猫が暮らしていくには相当危険な環境なので、その傍を通るたびに生存確認をしたりして、しばらく気をもんでいたところ、11日の晩に事件が起こった。草むらの脇の方、ちょうどコンビニとの境あたりから、子猫のものと思しき鳴き声が聞こえてきたのである。「鳴き声」というよりは助けを求める「悲鳴」に近い。あちこち声のする方を探して、側溝をのぞきこんだり、道ばたに置かれているコンビニのコンテナをよけてみたり、端から見ればなかなか不審者のようなことを繰りかえしたあげくわかったのは、とんでもないところに子猫が入り込んでしまったらしいということだった。
草むらの隣にはコンビニがある。コンビニが入っているのは5階建てぐらいの雑居ビル兼マンションの1階なのだが、その雑居ビルの側面の壁、地面から30センチほどの高さのところに、なんのためだかわからないが通気口が開いている。普通ならば通気口にはフィンのついたキャップが被せてあるのだが、経年劣化でプラスチックのフィンが折れてしまい、子猫なら通気口にはいれてしまう状態になっていたのだ。にゃーにゃーと助けを求める子猫の声は、どうやらその通気パイプの奥から聞こえてくるらしいことがわかった。
というわけで、隣のコンビニで980円の懐中電灯を購入。通気口の中を照らしてみる。かなり奥の方まで水平に伸びているが、子猫の姿はない。しかし照らした明かりに気づいたのか、子猫の鳴き声はいっそう大きくなる。通気パイプが奥で折れ曲がったその先にいることは、どうやら間違いなさそうだ。
おそらく、活発で好奇心旺盛な子猫のこと、ひょいと通気口に入り込み、奥へ奥へと進んでいったところ、垂直に曲がったパイプを滑り落ちて上がれなくなっているのでは、と推測された。ちょうど雨の日だったので、通気口に傘を突っ込んでみたが、パイプが水平に伸びている長さは1メートル以上……ということは、雑居ビルの2階へ上がる階段の幅を超えて、コンビニ店内まで達しているのかもしれない。コンビニのバックヤードから外につながる通気口ならば、コンビニの店員さんにお願いすれば助けることができるかも。
ということで、さきほど懐中電灯を買った店員さんに、缶コーヒーを買いながら声をかけてみた。「あのー、すみません、変なことお訊きしますけど……」
ふみがうちにくるまで(2) につづく
- 関連記事
