
『ネコを撮る』(朝日新書033)と「岩合光昭写真展 ねこ」
- 『ネコを撮る』
- 岩合光昭
- 朝日新書033・2007年3月
- ISBN978-4-02-273133-3 720円+税
- 朝日新書033・2007年3月
2007年3月ですから、もう5年前の本ですね。大きい書店であっても、流れの激しい新書棚では今だと並んでいなくて、版元に注文をかけて入手する感じじゃないかと思います。あるいはAmazonなどの通販でしょうか。寝子ねこの形に切り抜かれた特製しおりがかわいいです。
さるねこ父は、この本を買うのと相前後して、まちにいるねこの写真を意識して撮るようになりました。最初のうちは、通りすがりでよく見かけるねこをケータイ(当時のケータイはまだ300万画素とかそんなもん)で撮るくらいだったのが、コンデジを常時持ち歩くようになり、今では一眼レフを抱えてわざわざ撮影に出かけたりしているわけです。その経験から学んだことと、この本で岩合さんが本の半分かそれ以上を割いて言わんとしていることは、
「ねことの距離を詰めるために知恵を絞れ」
ということです。
わかりやすいところでは、目の前にいるねこが何を考え、思っているのかその心理を読むことが必要になります。こちらに寄ってこようとしているのか、注意深く観察しているのか、早くも逃げ腰なのか。ちょっとしたねこのしぐさや身のこなし、視線の動きからそれを先読みして、打てる手を打ちましょう、となります。ねこという動物の心の機微を知らないといけないよ、ってことですね。
相対しているねこは、こちらの一挙手一投足に全神経を集中させています。不用意に近づくことはもちろん、カメラを構えること自体が、ねこにとっては「要注意、回避!」の判断につながります。「素知らぬ風で間合いをとりながら、徐々にこちらの有利な状況にねこを誘い込んでいく」のが、ねことの距離を詰めるための、そしてつまりは、よいねこ写真を撮るための戦略であり、そのための戦術のヒントがこの本には散りばめられています。
よく「私はネコがこんなに好きなのに、ネコに嫌われる」という話を聞く。その前に、ちょっと考えて欲しい。「私はネコが好き」というのは、自分が主人公になっていないだろうか。ネコとお近づきになりたいのなら、ネコの立場になってものを考えてみよう。
(本書37p)
ドランクドラゴンの鈴木に聞かせてやりたい気がしなくもないですが、それはともかく、こんな感じの岩合さんのモノローグが展開される合間に、岩合さんのねこ写真がてんこもりになっている(惜しむらくは本文写真はモノクロ)のが、この本です。
妙な言い方になりますが、この本を読んで、それでねこ写真がうまく撮れるようになるわけではない、と思います。ねこ写真をうまく撮るための入口に立てるだけ。でもその入口、スタートラインに立たないことには、「走って逃げ去るねこの後ろ姿の写真」とか「こっちを背中を見せてそっぽを向いているねこの写真」とか「画面の一部に豆粒みたいに小さくねこがいるかも? な写真」を量産するだけに終わります。
やっぱり「大きなあくびをしているねこの表情」とか「母ねこの後ろを一生懸命ついて歩く子ねこたち」とか「街の風景に溶け込んだねこの居住まい」とかを撮りたいわけです。そのために、ねこの生態・行動パターン・生活リズムを熟知し、個々のねこの性格を読み取り、次のねこの動きを予測し、街でねこの集まる場所・絵になりそうな風景を探す。さまざまなことを頭に入れて計算しながら、一瞬のシャッターチャンスに備え、それを捉える。
難しいけど、おもしろいです。まちのねこの写真を撮るのは。
で、その岩合さんのねこ写真展が、8月14日(火)から9月2日(日)まで、長崎県美術館県民ギャラリーで開催されます(8月27日(月)は休館日)。前売券かわいいですよ(ちょっと『ネコを撮る』のしおりに似ている)。ぜひ前売りを買った上で、足をお運び下さい。
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