
ふみがうちにくるまで(2)
「はい、なんでしょう?」
「外で子猫の鳴き声がしてますよね」
「ええ、さっきからしてますねえ」
「あれって、もしかすると助けを求めているんだと思うんですけど」
「はあ」
「すみません、ちょっと手の空いたときに、一緒に外を見てもらえませんか」
「あ、いいですよ」
長崎の人間は、基本的にひとが良い。これが東京だったら、不審者とまでは思われないにしても、面倒がってまともに相手にしてくれないのがふつうだろう、と思う。
しばらくしてお客さんの波が少し途切れてから、一緒に外を見てもらった。ひとの気配を察したのか、子猫はひときわ高くみゃうみゃう鳴きだした。
「あー、この奥にいるみたいですね」
「そうなんですよ、これって店の中からアクセスできるってことはないですか?」
「いやー、どうだろう、ちょっと見てみますけど、無理なんじゃないかなあ」
店内にもどって、バックヤード側を調べてくれた店員さん。
「いやあ、こっちじゃないですねえ」
「そうなんですかあ……ってことは、ええと、建物の内側からはアクセスできないってことですかね?」
「うーん、ちょっとわからないですねえ」
「…………」
「…………」
「どうしましょうかねえ」
「うーん、とりあえず警察を呼んでみるとかですかねえ?」
「そうですね……じゃあ、近くの交番までちょっと歩いていってきてみます」
というわけで、10分ほど歩いたところにある交番まで足を運ぶ。「あのー、すみません」
署内では若手の女性警察官の方と年輩の男性警察官の方が、ちょうど何か一つ案件を片付けたところであったらしい。一通り事情を話したところ、とりあえず準備をして現場に向かうから、ということで、自分は歩いて引き上げてきた。
待つことしばし。さきほどの2名の警察官がパトカーに乗って(さすがにサイレンは鳴らさないが)コンビニ前にやってきた。パトカーの停め場所にてまどる間に、なにごとかと野次馬も何人か立ち止まって見物している。
「ああ、確かに鳴いとるね。どこですか?」
「たぶん、この通気口の奥だと思うんですけど」
ポケットからペンライトを取り出して覗き込む女性警察官。
「奥にいるみたいですけど、見えません」
どれ、と男性警察官の方もペンライトを受け取って覗いてみる。
「見えんね。奥におるやろうけれども」
「ええ、そうなんですよ」
「これは……壁から壊して入らんばいけんね」
「そうなんですか……」
「オーナーさんに連絡とれる?」
「店長なら、ここを借りてるから、オーナーさんの連絡先もわかると思いますけど」と店員さん。
「とにかくね、オーナーさんの承諾がなかったら、警察としてもどうにも動けんのでね」
「そうですか、ちなみに、こう、テレビで見るようなペットレスキューとか、長崎にはないんですかね」
「さあー、どうかね……知らんねえ」
というわけで、親切に来てはくれたものの、建物のオーナーでなければどうにもできない、という事実がわかっただけである。店長さんは朝5時(!)にやってくるというので、引継ぎを店員さんにお願いして、わたしも引き上げることにする。といってももう終バスはとっくに出てしまっているので、歩くか、タクシーに乗るか……と思案しながら歩いていたところ、ケータイが鳴る。
「もしもし、××の交番の者ですが」
「はい」
「あなたがさっき言っとったペットレスキューね、あれ、消防の方でやっとるということがわかったので、連絡しました」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「ただしね、土日はやっておらないで、平日の8時45分から17時半まで」
今は土曜日の真夜中になろうとする時刻である。明日日曜日はだめ、あさっての朝まで待たないといけない。それまで子猫の体力が持つだろうか。てか、そういうのって、24時間365日でないと、意味なくないか……まあ、人間の命がかかっているわけではないから、しょうがないのか……。
とりあえず明日日曜日にできるかぎり動いてみることにして、いったん家に戻ったのだった。
ふみがうちにくるまで(3) につづく
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